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第46話 4、聞こえる声

、あるよ」 「え?」  そう言った瞬間、シャルルの手の中の注射器の針は、彼の皮膚の中に入っていた。  ドクン。  シャルルから強制的な匂いが発せられた。  ヒートだ。強制的に発情させる誘発剤を、シャルルは使ったのだ。 「……シャルル」 「うん。には、手を、ださない、からね」 「お前……」 「リヒト」  そう言ってシャルルは、リヒトに触れた瞬間、その手を弾かれた。 「え?」  意味がわからない。もう一度触れる。 「え? なんで……なんでだよっ!」 「……なんでだろうね、残念だったね、シャルル」  ガード魔法だ。ガード魔法が、リヒトを包んでいる。 「リヒト!」  そこにジルがいた。移転魔法だ。 「なんでっ!」  シャルルが苦悶の表情で叫んだ。 「リヒト」  ジルは勢いよくリヒトに抱き着いた。 「……」  リヒトは笑った。 「リヒトは僕の番。僕だけのリヒトなんだっ!」  そう言った瞬間、ジルはリヒトごと移転した。 「くそっ! なんでだよっ!」  シャルルはその場にうずくまった。怒りが心頭している。  また邪魔されたっ!  もうこうなったら、最後の手段だっ!  そう思った瞬間、その場にラオネがいた。 「この馬鹿っ!」  ラオネはシャルルに特効薬を注射した。発情誘発剤を注射した後に、抑制剤の特効薬を注射すれば、体に負担はかかるだろうが、手段を選んではいられない。  ラオネはシャルルをソファーに座らせた。 「何をしたかわかっているな?」 「……僕は、悪く、ない」 「馬鹿か」 「……僕は悪くないっ!」 「お前が悪い。諦めろと何度言ったら分かるんだ、お前は」  はあっっと盛大にため息を吐いたラオネは、話を続けた。 「お前の両親にはもう限界だと伝えた」 「なにがっ!」 「俺の時からずっとだろうが。忘れたか? お前がしてきたことを。俺はリヒト程優しくはないぞ。リヒトが許すから黙っていたが、もう限界だ。お前はもう家に籠れ。もう学園には来るな」 「はあっ? 僕が? なんでっ!」 「わかるだろうが。お前は。まあ、わかってもわからなくても、退学は決定だ。お前はリヒトと幼馴染だからということで見逃してきたが、今頃はお前の両親に話がいっているはずだ」 「僕は悪くないっ!」 「もう諦めろ。お前は選ばれなかった。見苦しいぞ」 「大体ラオネが悪いんだ。僕を、僕を選ばなかったからっ!」 「選ばれるとでも思っていたのか? 図々しい奴」 「は?」 「馬鹿だな、お前。一生家に閉じこもってろ」 「ラオネっ!」 「まあ、今頃お前の両親が、血相を変えてそれ相応の血統のアルファを探している頃だろうよ。よかったな」 「ラオネがっ! お前が一番悪いんだっ!」 「そうか? ならそれでいい。じゃあな」  ラオネは移転した。 「くそっ! くそっ! ……」  シャルルは頭を抱えた。  あの時、ジルの脳内に、リヒトの声が聞こえてきた。何かを感じ、ジルから無意識に、リヒトに向けてガード魔法が飛び出した。  そして判断し、すぐに助けを考える。   ラオネだ。ラオネの魔力の流れは、リヒトに似ている。その瞬間に判断し、ラオネの脳内に助けを叫んだ。 『ラオネさん、ラオネさん』 『ジル、か?』  答えた! 『リヒトが……。なんかシャルル君の様子が変で……』 『寄宿舎か?』 『シャルル君の部屋です』 『わかった。急げ。移転しろ』 『はいっ!』  そしてジルは、シャルルの部屋に移転した。ジルのガード魔法がリヒトを包んでいた。ジルはリヒトを抱きしめたまま、シャルルの部屋を後にした。 「リヒト、大丈夫? 僕、間に合った?」  ジルがリヒトを抱きしめながら、そう伝える。 「勿論。ジルのおかげ。ありがとう」  リヒトはジルを抱きしめ返した。  当然、実は、リヒトは念のために自分にガード魔法をかけていた。しかし思いがけずジルのガード魔法がかかった。  ジルの魔法はジルの気持ちに反映する。  ジルが自分を守ろうとしていることを感じ、リヒトはとても嬉しかった。それは脳内に花畑が満開になろうかと言うほどの勢いであった。  だから笑った。  シャルルが反省などするはずはない。そのことは誰よりも知っているだろう。  でも、ジルの気持ちが伝わって、とてもとても嬉しかった。 「ありがとう、ジル。俺、嬉しかったよ」 「僕は間に合ったんだね。僕の魔法は、リヒトを守れたんだね。よかった」  ジルはホッと息を吐いた。  ぷにちゃんは、二人の邪魔をしないように、部屋の隅に移動していた。というより、この甘い甘い雰囲気にいたたまれなくなったのである。 「ジルっ!」 「リヒトっ!」  いつものように、しっかりと抱き合う二人。ぷにちゃんは、思いきり視線を逸らして空を見ていた。  シャルルはすぐに、両親が迎えに来て、そのまま自宅へと戻って行った。そして二度と学園に、いや、二人の前に現れることはなかった。  ラオネの言うように、シャルルの両親が相応のアルファと縁組をさせたのである。  最後までシャルルは抗っていたという。しかしシャルルの叫びは、虚しく空に消えていったのである。  そして一か月後。 「ジルの魔法、随分安定してきたね」 「そうかな。リヒトにそう言って貰えるとうれしいよ。リヒトとこの子のおかげ」 「そっか。うん。そうだね」  本日も実務訓練である。今日の魔の森は、ギルド登録メンバーで、中級コースへ行くことになった。予想以上にジルの魔法が安定していたからだ。 「油断は禁物だからな」  シメオンは念のために釘を刺しておく。 「はい。わかりました」  ジルは素直に頷いた。  皆にサポートして貰っていることはよくわかっている。ジルが魔法を出しやすいように、三人はいつも、さり気なくサポートしてくれているからである。 「みんな、いつもありがとう」 「いえいえ。どういたしまして」  ドニスもクレスも微笑んでいる。  頼もしい仲間達だなと、感謝の念を抱いていた。  さあ、出発しようとした時、そこにクレールがいた。そう、クレール・ギスラン。彼は以前、ジルと同室だった、取り巻きたくさんのオメガだった。 「中庭に何の用だよ」  ドニスが言った。 「何って、用があるからわざわざ来てやったんだろう?」  クレールが、ニヤリと笑って言った。  クレールもまた、ギュスターヴの名が欲しいオメガの一人であった。そしてニヤリと笑いながら、近づいてきた。  リヒトはジルを守る様に立ちふさがる。ジルも素直にリヒトの背に守られた。 「何の用だよ。クレールは別に魔の森に行くことはないだろうが」  ドニスはそう言って、クレールの行く先を遮る様に立ちふさがった。 「どいてよ。僕は君に用はないよ」  その瞬間、如何にも不本意だという様な、苦虫を食い潰したような表情に変わった。 「じゃあ、その要件を言えよ。そこからでも十分話は出来るだろう?」 「はあ? 誰に向かってそんな口聞いている訳?」 「さあね、誰だろうね」  クレールはフンと顎を上げ、ジルに言った。 「もうすぐ中間テストだけど、大丈夫なのかな」 「え? あ、そうだね」  ジルはこくんと頷いた。そしてリヒトを見て微笑んだ。
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