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「今頃帰ってきても、戻る場所はねえよ。柚希の居場所を吐くなら、考えなくもねえけど」 「もとより、戻れるなんて思ってない。長瀬さん、嫌いでしょ。そういうの。今日一日、耀を借りたいだけ」 「貸出はしてねえんだよ」と長瀬が低い声で答えた。長瀬にしては、ぴりっとした冷たい雰囲気だ。出ていった人間には、冷たいのだろうか?  ケイが寂しそうに微笑んだ。 「白井の暴走を止められるのは耀だけ。だから連れていきたいんだ。明日、歌番、入ってるでしょ? それまでに解決したいでしょ、そっちだって。俺だって、いつまでもマネ不在で仕事したくないんでね」  ケイがスマホを出すと、動画を見せてきた。椅子に縛られている柚希が見えた。春臣が鞭を持って、振り上げてたたきつけているのが見えた。痛々しいその光景に、俺は目を背けた。 「耀が作曲家として復帰したのか。柚希の素性がなんなのか。長瀬さんが何を企んでいるのか。そんなことを質問しては、何も答えない柚希を暴力でどうにかしようとしてる。こんな白井、見たくないんだ。耀に止めてもらいたい」 「俺よりも、ケイのほうが止められるだろ」  俺は春臣に捨てられた人間だ。ケイは春臣に選ばれた人間。暴走を止められるのはケイだけじゃないか。 「確かに。これは耀だな」と長瀬も動画を見て、納得したようだった。 「でしょ? 俺じゃない」 「耀、こうなった以上、柚希のことは話して構わない。後々のことは気にするな」  長瀬がにこっと笑って、肩を叩いて、「ただ、柚希と交わした契約は守れよ」とケイに聞こえないように耳元で囁かれた。  あとが怖いから……と付け加えられて、少し吹き出してしまった。長瀬のほうが年上なのに、柚希が怖いとは。  俺はケイの車の助手席に座った。ふかふかの座椅子に、ここも高級なのかよ、と愚痴りそうになる。  ケイは春臣と事務所を移籍して、爆発的に売れた。HANTERのときとは比べ物にならないほど。出す曲は毎回ベストテン入りしてたし、ダウンロードと動画サイトでも。  大手事務所のバックアップのすごさを知った。本人の努力もあると思う。歌い方が昔と違うし、音域も広がっている。得意の高音域も艶がある。  でも俺は、それを認められなかった。現実を受け入れられなかった。やっと柚希と出会って、受け入れられたのに。 「ケイ、ケイは春臣とそういう関係なのか?」 「……は?」  運転中のケイに、俺は8年間に聞きたかった質問を、やっと聞いた。ケイは眉間に皺を寄せた後に、何が言いたいのかを理解したのか首を振った。 「完全なビジネス関係。白井との間に恋愛感情はない。白井が好きなのは耀でしょ」 「え?」 「気づいて……なかった、わけないでしょ? 俺ら、全員付き合ってると思ったし。歌にプライベートを持ち込まなかったから、何も言わなかっただけで。移籍のときに、俺は付き合ってないって知ったけど。他のメンバーは付き合っていたと思ってるはずだよ」 「付き合って……なかった、と思う。でもわからない」  告白してない。一緒にいる時間は長かったけど。身体の関係もなかった。  俺は好きだった。尊敬もしてた。褒められたかった。認めてもらいたかった。春臣の一番でいたかった。
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