35 / 62

3

 俺は長瀬さんの腕の中にいた。 「あれ?」 「『あれ』じゃない。控室のドアを開けるなり、ぶっ倒れたんだぞ。何やってんだ、全く」 「すみません」  俺は額を抑えて身体を起こした。まだ控室のドアのところにいる。気を失ってから、そんなに時間は立ってないのかもしれない。 「俺、どれくらい意識を飛ばしてました?」 「数秒だ」 「そう……ですか」  俺が立ち上がろうとすると、長瀬さんが支えてくれる。椅子に座るまで俺の肩を抱いていてくれる。 「顔色が悪い。寒気があるのか?」 「ええ、まあ」  長瀬さんが白いマフラーをとると、俺の首に巻きつけてくれる。黒色のコートも脱ぐと、俺の肩にかけてくれた。長瀬さんのぬくもりが伝わってきて、俺は思わず涙が出そうになる。 「恵太、随分と華奢になったな」 「そうでもないですよ」  俺はフッと笑った。確かにHANTERにいたときよりも、10キロ近く落ちた。痩せろと言われて痩せたわけじゃない。  仕事が忙しくて……というわけでもない。精神的なもの。 『恵太』  名前を呼んでくれた。初めてなんじゃないだろうか? 芸名じゃなくて、本名を呼んでくれるなんて。 「CDのジャケット写真とだいぶ、体つきが違うようだが?」 「あれ、俺じゃないから。どっかの無名のモデル。俺と背丈が似てるから。俺が脱いだって、ガリガリだからね。絵にならない」  クスクスと俺は笑う。事務所の方針。歌番組では素肌を極力出さないのがルール。その分、ジャケットでは素肌率高め。って俺じゃなくて、モデルだけど。  まるで俺の身体のように撮ってる。  プロティンを飲んで、筋トレして……ってやってる時もあったけど。見せられる身体にはならないって事務所が判断した。見せられる身体になるのを待ってられなかったんだろう。  身体づくりしなくていいって事務所から言われた時は、どんなにホッとしたか。 「本番、ギリギリまで休め」  長瀬さんが、俺の肩に手を優しく置いてから控室を静かに出ていった。俺は瞼を閉じると、本番までに少しは回復していることを願った。  ここは……どこだ?  どこかの家なのはわかる。白い天井に、黒いカーテン。ベッドはダブルベッドで、黒い枕に白いシーツ。グレーの毛布に黒の羽毛布団が俺の上にかかっていた。  白と黒で構成されているセンスある寝室なようだ。ここはどこだろう。  本番を終えて、控室に戻ろうと廊下を歩いていた。控室のドアを開けようと手を伸ばしかけていたところまでは記憶がある。たぶん、その直後に安心して意識を飛ばしたんだと思うけど。
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!