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第39話

「あなたはだんだん眠くな~る……」 目の前で紐付きの五円玉が揺れている。 「あなたはだんだん羽柴さんを好きにな~る……」 ちょっと……馬鹿馬鹿しいと思いながらもこの茶番にお付き合いしなければならない……。 それが『鬼ごっこ』でタグを獲得した事へ対する『お願い』だったから……。 ・・・・・・・・・・・・・・・ あのよくわからない『鬼ごっこ』から一夜明け、登校中に羽柴君に呼び止められた。 羽柴君の要求は『放課後F組に一人で来い』という事だった。 有象無象のF組に一人で行かせられるかというはる君としゅう君を多数の生徒が行き交う場所で嘘つき呼ばわりされるのが嫌で、二人が止めるのも聞かず、F組に行く事を了承した。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 自分で決めた事とはいえ、内心ビクビクで怖かった。 F組に着くなり、教室の中央に座らされて羽柴君の友達に取り囲まれた。 「……天使……今日は俺の事を好きになって帰ってもらうぜ」 そう言って笑った羽柴君達が始めたのが……この茶番劇。 初めは羽柴君の武勇伝?を描いたらしい紙芝居を見させられた。 何処何処の誰を潰したとか聞かされても、正直引くだけで恋心は芽生えないよね。 続いて羽柴君ヘの讃辞を綴ったポエムを聞かされた。 次に羽柴君の一日を追った動画を見せられた。 そして、この古めかしい催眠術。 ……もう、どう反応していいのか分かんない。 「天使……俺に惚れた?」 「……ごめんなさい」 正直に答えると羽柴君は不機嫌そうに「次だ!!」と怒鳴った。 タブレットを渡されて画面に流れてきたのは……。 はる君としゅう君の動画……しかも授業中の姿!! 初めて見る僕の知らない二人の姿に思わず見入ってしまった。 よそ行きの笑顔のはる君もツンツンしたしゅう君も新鮮。 「おいっ!!あいつらを見せてどうすんだよ!!」 「これはサプリメント効果であいつらの映像の合間に羽柴さんの画像をちらりと差し込んでるんですよ。これであいつらを見る度に羽柴さんを思い出して無意識に涎を垂らすって訳です」 「おお!!すげぇな!!」 サブリミナル効果の事だろうか……?そしてパブロフの犬も交じってる……。 その後も耳元で延々『羽柴さん好き』と言う言葉を聞かされたりしたけれど……何の効果も見られないまま、下校時間を迎えた。 タイムリミットとなり、帰ろうとしたら羽柴君が送ってくれると言ってついてくる。 ぽてぽてと歩きながら…… 「天使……俺の事、ちょっとは好きになってくれた?」 いつもとは違う、自信なさげな目にドキッとして。 大勢の前では言えなかったけど……約束もちゃんと守ってくれる羽柴君にはちゃんと答えないと悪いよね……ちょっと怖いけど。 「……ごめん。僕はやっぱりはる君としゅう君が好き。羽柴君はいい人だと思うけどそういう風には見れない……」 「天使……」 「……僕は天使なんかじゃないし……普通に名前で呼んで?」 ハラハラしたけれど、ちゃんと伝えられた。 羽柴君が怒って殴られたりしたら嫌だなと思ったけど、ぽかんとした顔で見て来るだけで怒っている風ではない……。 ほっと胸を撫で下ろした。 「そ……それは……名前を呼び合う関係に昇格したって事だな!!」 ……はへ?昇格……? 「た……拓海……うぉ!!照れる!!」 僕の手を握ってモジモジ始める。 「俺の事も名前で呼んでくれるか……?」 「え……えっと……捺虎君?」 「ありがと……すっげぇ嬉しい……」 いきなり腰を抱かれ……暖かな感触が唇に触れた……。 「じゃあ……また……」 真っ赤な顔で片手を上げて去っていく羽柴君……。 いや……僕、割とはっきり言ったのよね……? 会話の通じない宇宙人と出会った様な感覚で、去っていく後ろ姿を呆然と見送った。
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