6 / 8

第6話

 俺の声に大きな背中が振り返り、こちらを見た目が大きく見開かれる。そして包丁を放り出し、火を止めると大股で近づいてきた。 「水地先輩っ! 本当に買ってきてくれたの? しかもここ俺の好きな店」  袋を両手で掴んで鴻上は目をキラキラと輝かせる。そしておもむろに両腕を広げて抱きついてきた。勢い込んで抱きつかれて足元が少し揺らぐ。 「く、苦しい。離せ馬鹿」 「もう、先輩可愛い! めちゃくちゃ愛おしいです」 「ちょ、やめろ」  顔をだらしなく緩めながら鴻上は人の顔中に口づけてくる。終いには唇に食いついてきて、顔を背けようとする俺などお構いなしに口の中を荒らし始めた。身長差があるから目いっぱい顔を上向かされる。  それだけでもかなり辛いのに、息つく間もないほど口の中を撫でられて唾液が溢れてきた。変に上擦った声が漏れて、頬が熱くなる。 「や、離せ……も、う、やだっ」  首の後ろがざわざわする。身体の力が抜けて、思わず目の前の身体にしがみついてしまった。 「そのとろんとした顔、可愛い」  肉食獣が餌を前にするみたいな顔で唇を舐める。その仕草がやけに色っぽくて、少しだけドキリとした。けれどすぐさま我に返った俺は、目の前にあるその顔を思いきりよくつねり上げる。 「いでででっ! 痛い、先輩っ」 「黙れ、万年発情男め」 「いやいや、俺は淡泊なほうですよっ」 「どこがだよ。週に三回やらなきゃ気が済まないくせに」 「え、毎日じゃないだけいいじゃないですか」 「毎日なんて死ぬわ、ボケ!」  力任せにバシバシとあちこち叩いていたら、さすがに我慢ならなくなったのか後ろに避けられた。俺の手を捕まえようと構えているその姿に舌打ちしたら、苦笑いを返される。 「でも先輩、エッチが気持ちいいから付き合ってもいいって言ってたくらいだし、嫌いじゃないでしょ?」 「はぁぁっ?」 「あれ? 覚えてないの?」 「言わねぇよそんなこと!」 「いやいや、忘れないでくださいよ。俺もそれはどうかなって思ったけど、先輩が可愛くお前ならいいって」  鴻上が言葉を言い切る前に乾いた音が響いた。思わず振り上げた俺の手が頬を打ったからだ。
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!