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第42話 浄化の代償

 次の日。今日は泉へ浄化に出発する。片道2時間といった所。殿下にも補充して貰ったから、大丈夫。  ダリウスは何か言いたそうだけどスルーした。喧嘩はしたくない。する理由もない。  浄化の後は負担が大きいから、その後体力を回復させる為、暫くまた南の砦に滞在という。本当はもう戻りたくないけど…。  ああ、気が重い。またアレがあるんだろうか。  砦は神官と魔道士が大勢いるから、地方から来た病人位で安定してるという。そうじゃないと要を守れないから。でも、泉の近くはかなり酷い状況だとか。  そして、今、俺は山を登る準備をしている。今いる麓はキャンプ地だ。近づくと危険な歩夢君、王宮侍従、ノーマ、ヴァインなどは残る。歩夢君の騎士のシファナと、ウォーベルトも麓だ。ハンスは砦待機。  ダリウスは歩夢君にと言ったら、歩夢君にもダリウスを連れて行けと言われたので来て貰う。  正直心強いけど、イライラも募る。ずっと無言だ。多分昨日の話は聞いたろうけど、俺が拒否してるので話しかけて来ない。  殿下は危険なのについてくるという。  泉チームは、俺、殿下、ダリウス、エルビス、ラドクルト、マテリオ、 アリアーシュ、神兵さん二人、ソレス神官。  森の中に流れる水は淀みが激しく、あの泉より酷い。相変わらず、水路は嫌な臭いがする…ザワザワ嫌な気配もする。 そして目の前に現れた泉は、前回よりも淀みは深く臭かった。  でも、木々の合間から溢れる木漏れ日は美しく水さえ浄化されれば完璧な美だろう。  しかし、ここに潜るのか。でも、今回は歩夢君の創造スキルで作って貰った物がある。ゴーグル、酸素マスク、酸素ボンベもどきだ。  弁の構造がはっきりしなくて、上から空気を送って貰う形になった。全面マスクって奴。 ウェットスーツを着るべきか悩んだが、もし危ない事態になった時脱がせるのが大変だとやめた。  まずはどこにあるのか探さないと。みんなも顔を歩夢君作成のマスクで覆っている。前より濃いからな…。  嫌々俺組みになったアリアーシュだが、結界石を作ってマスクに組み込み持たせているので、大分淀んだ空気を遮断してるのだとか。  俺も一応持っている。少しでも力の消費を減らす為だ。 「今回は、あの辺…かな。どう思う?」  マテリオに聞く。ソレス神官も見ていて、僅かに緑が濃く湧く場所を指した。 「ここは深い?」 「3メートル位だが、見えないのが難しいな。」 「魔石と一緒に、これを使ってみろ。」 アリアーシュが出したのは、水が循環する魔道具だという。 「魔石で浄化した水を周囲に行き渡らせれば、少しは見えるだろう。」 「なるほど。やるなぁ。」 「これ位なんては事ない。はぁ、アユム様の所に帰りたい…。」  ツンとしてる。美人なのに勿体無い。だが、歩夢君の忠実なる番犬でいるなら許してやる。 「殿下は岸にいて下さいね。」 「…分かった…。無理はするな。」 「ハハッ、2回目ですから!」  本当は不安だけど…一人じゃないから。  船にはマテリオとダリウス、ソレス神官、神兵一人が乗る。今回はマジックバッグが大きいので、大きめの船を用意出来た。  その場所に近づくに連れて、空気が重い。マテリオが言うには瘴気のせいだと言う。みんな、大丈夫か?マスクしてても入り込んでるのかな。  時々全員の手を握ってやりながら近づく。触れるだけで浄化出来るなら、これでも少しはマシな筈。  俺は上着を脱いでズボンだけになり、腰紐を結びつけた。そしてマスクを付ける。大丈夫!前よりは装備は良い!  魔石と魔道具は体に結びつける事にした。負担が減るはずと アリアーシュの言葉だ。  良し、と顔をパンッと叩いて飛び込む。息は続くから、きっと大丈夫…。それにしても、モヤモヤと立ち上って気持ち悪いな。あっちだ…  呼ばれているような、拒まれているような矛盾した感情が流れ込んでくる。  あの時と、同じに。  魔道具のおかげでかなり見やすい。でも簡単には見つからない…気持ち悪い…  吐きそうだ…息は続くけど吐き気に襲われる。  一度船に上がって上がって、息を吐く。みんなも苦しそうだな…  目安は付いたから、次は取ってくるつもりだ。  俺は再び潜る。多分、そこと目星をつけた所目指して潜る。  ゆっくり手を伸ばし、白い影に手を伸ばすと、またチクリと痛みが走った。また荊かよ!  ああ、そこから、流れ込んでくる…  クルシイ  イタイ イタイ イタイイタイイタイ  もうすぐ、楽になるからな…  息は出来てる。でも体はどんどん重くなる。傷から瘴気が体内に入って来るのかな。  周りがキラキラしてる。水が浄化してるのか。綺麗だな。  ずっと みていたいかも  ミヨウ イッショ ニ…  もう、少しで水面。  手を伸ばして…俺は手を引いた。  イテクレル?  ここにいるのか?どうしたい?  ミコ イッショニ オチ ル?  おれは、おちない よ  まってる ひとたちが いるから…  ワタシノ ミコ クル…シ……イ  たすけるよ いこう  気持ち悪かった筈の水の中で、ナニカと話す俺はそのままソレと居ても良いような気になっていた。  でも、帰らなくちゃ…どこに?  どこに いくんだっけ?  不意に引っ張られる感じがして、荊に封じ込められた像を抱きしめる。胸にも荊が刺さる感触はあるけど、痛みは感じない。 マスク越しに見えるキラキラと、船底を見つめ、ボンヤリとされるがままに浮上した。 「「ジュンヤ!」」 「ジュンヤ殿!しっかり!」  ん?だいじょうぶ。おれ、いしきあるよ。  なんか、はなせないけど、だいじょうぶ。おれはわらう。  これ、いっしょに、きた。よかったな。  誰かが抱いて船から下ろしてくれた。  俺は像を胸に抱いている。 「ジュンヤ殿、これを離せ。抱きしめるのをやめるんだ!」  なんで?さみしいって、くるしいっていってた。  手に誰かの温かい力が流れてくる。右手から血が流れていたらしい。少しづつだが止まり始める。  グイッと顔を上向けられ、別の誰かにキスされて、唾液と力が体内に流れてきた。  ああ…、ダリウスとソレスさんか。俺また怪我したのか。  あれ、胸も痛い!抱きしめていた像を離す。なんでこんなの抱っこしたんだろう… 「だい、じょう、ぶ」  声を出したら途切れ途切れになってしまった。 「マテリオ、これ、ばしょ、おしえて」  息切れしてしまい言いにくいが、二人のお陰で大分マシだ。   「ここ…だな。また、触れてくれ。」 「うん…」  俺は、マテリオが見つけた花の模様に触れた。  イッショニ イナイノ?  ごめん  ミコ ワタシノ モノ  俺は誰のモノでもない。俺のモノだよ  ミコ…ワタシノ…ハンシン タスケテ  ハンシン?  カタワレ ハンシン ケガサレタ  ハンシンさんも助けられる様に、頑張ってみる。  もう疲れたろ?おやすみ。 オヤスミ…  荊は再び枯れ始め、プレートが真っ二つになった。 「ハンシン…助ける…?」  俺はトリップしていたようだ。布に包まれたのを感じて、ふと見上げるとダリウスの腕の中だった。苦しそうな顔をしている。  ごめん、心配させた。そう言おうとした瞬間、俺を抱いたまま立ち上がった。 「何者だ!!」 「……」  そこに居たのは、黒い剣を持ち、黒い鎧を纏った騎士だった。髪は赤銅色、灰色の肌。瞳は…ルビーにグリーンが混じっている青年。  マーケットに居た…あの時の男か!!  ああ、声が上手く出ない…。 「あ…」 「返せ。」  俺を真っ直ぐに見ている。返せって?  俺が像を浄化したから?  でも、見ているは俺の事だ。  俺の前に、ラドクルトと神兵達が立ちはだかる。  騎士の剣から、瘴気が立ち昇っているのを感じる。ただ切られるだけでは済まないと分かる。  でも、俺は指一本動かせない。 「団長、ジュンヤ様連れて逃げて下さい。」 「ラド、まって」 「「神子様、二度も浄化に立ち合わせて頂き、神兵として最高の栄誉を頂きました。お逃げ下さい。」」  初めて聞いた神兵さん達の声がこんな言葉なんて。 「ジュンヤ、このままここに居ては彼等の邪魔になる。」 「殿下…」 「行くぞ!!」  ダリウスが猛然と走り出す。  俺を追う様に騎士が襲いかかるが、ラドクルトが風で空気を切り裂いた。 「行かせん!!」 「ラドッ!神兵さんー!」  俺の叫びは虚しく響いて、山道を駆け下りて行く。ここまで30分近く歩いた。 それを俺を抱いて走るのか?  ダリウスを見上げると、見た事の無い闘う漢の顔をしていた。上手く動かない手で縋り付く。脱力してると重くなる筈だ。せめて負担が減る様にするしか無い。  半分位まで降りた所で、 アリアーシュとソレスが限界に来ていた。騎士と違ってパワータイプじゃ無いもんな。 「はっ、はぁ。私は、もう走れない。魔法陣を貼って、突破に、備える。」 「申し訳、あ、ありません、もう邪魔に、なって、しまいます…はぁはぁ」 「分かった、殿下、ダリウス様、行きましょう。」  マテリオ、なんでそんなアッサリ返事するんだよ!置いていくなんて! 「もう、いなく、なったかも。」 「いや、いる。ラドクルトの魔力を感じる。押されているから、突破されるかもしれん。」 「 アリアーシュ、其方は私の最も信頼する魔道士だ。死ぬなよ。」 「殿下…。必ず殿下の元に戻ります。」  殿下とマテリオ、エルビス、俺とダリウスだけになり、更に山を降りる。   神兵さん達は、何度聞いても名前を教えてくれなかった。一兵卒が名を呼んで貰うなど勿体ないって。  無理にでも教えて貰えば良かった。どうかみんな無事でいて…!! ーーーーーーーーーーーーーーーー 次回少し辛いかもしれないので、前書きをよく読んでから本編をお読み下さい。

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