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7 消えない温もり②

「エレ……っん」  ドアを閉めるなりいきなりヒューネルの唇を塞ぐ。技巧も何もあったものじゃなく、ただ何度も押し当てるだけだったが、幾度目かでヒューネルの手が腰に回り、ぐっと抱き寄せられた。同時にキスが深くなり、唇を舐められて招き入れようと口を薄く開く。 「……レオ?」 だが、いつまで経っても望んだものは入ってこずに、唇を解かれて身を離された。 「エレン、俺は……」 何かを堪えるような表情で唇を噛むと、言いかけた台詞を飲み込んだまま部屋を出て行こうとする。俺はその背中に衝動のままにしがみつく。 「エレン、離して」 「嫌だ。レオの……ヒューネルの本当の気持ちを聞くまで離さない。俺のこと、本当はどう思っているの?」 「……エレン」 「好きじゃないなら、期待させないで。はっきり拒んでよ」 涙交じりの声を上げると、ヒューネルが振り返って俺の両頬を包んだ。ヒューネルはキスができそうな距離まで近づいたところでぴたりと止まり、俺の目を真っ直ぐに見る。 「エレン、俺は君に好きだと言うことはできない」 「どう、して……」 「一つは、俺がこの国の王子で、しかも第一王子だから。国民は同性婚が許されているけれど、俺は子を成さないといけない。先日、両親を説得しようとしたが、特に母上が反対されてね」 「でも、確かそう年の離れていない第二王子が……」 「いるけど、父上も母上も俺にこの国の王になって欲しいらしくてね。俺は王と王妃の意向に逆らうことはできない」 「……っ、もう一つの理由は?」 「そっちは……」 ヒューネルは俺を悲しげな目で見ると、首を横に振った。 「言えない。口止めされているし、これを話せば俺は引き返せなくなる」 「それってどういう意味?」 「……」 「答えられないなら、一つだけ俺の望みを聞いて」 「望み?」  ヒューネルが怪訝そうに俺を見る。今から俺が言おうとしていることは、後悔することもあるかもしれない。それでも、やっと気づきかけているこの気持ちをなかったことにする前に、かたちとして残していたくて。 「俺を一度でいいから抱いてほしい。そしたら、ヒューネルのことはもう忘れる。今までのこと、全部」  ヒューネルは呆気に取られた顔をした後に眉間に皺を寄せた。 「エレン、本気で言ってるのか?」 「冗談でこんなことは言わない。俺はレオ……いや、ヒューネルのことが……」  想いを伝えようとしたが、ヒューネルがそれを言わせまいとするように荒々しく口付けて遮る。 「ン……っ、んぅ」  まるで思いの丈を全てぶつけるようなキスに喘ぐうちに、抱き上げられてベッドの上に押し倒された。  薄闇に包まれた部屋の中で、灰色の瞳が俺をじっと見つめてくる。口ではどんなことを言おうとも、熱い視線が本当の気持ちを雄弁に語っていて、見つめ合うだけで体温が上がった。 「っ……あ……」  制服の襟元を寛げながら鎖骨の辺りを柔く食まれ、微かにちりっとした甘い痛みが走る。何をされたのかと確かめる間もなく、複雑なつくりをしているはずの制服を手早く脱がされ、それどころではなくなる。 「やっ……ァッ」  胸の尖りを指で摘まみ、捏ねられたかと思うと、片側を口に含まれて吸われた。それで自分のそこがぷくりと立ち上がったことを知り、恥ずかしさを覚えながら自然と高い声が出る。 「可愛い」 「っ……」 「小さいのにしっかり勃起してる」 「やめっ、言わな……っひゃ……」  女の胸を扱うようにきつく吸い付かれ、立ち上がっている部分を歯で噛まれて自然と腰が浮いた。その拍子に、少し反応し始めていた下肢をヒューネルの大腿に押し付けてしまい、ヒューネルが笑みを浮かべる。 「こっちも触って欲しかった?」 「ちがっ……」  下着の上から形を辿るようになぞられ、もどかしい刺激に腰が震えた。もっと触って欲しくて、でもそれを口にすることはできなくて、ヒューネルをただじっと見つめると、ヒューネルの目がぎらついたように見えた。 「わざとそんな目をしてる?」 「えっ」 「誘うような目をしてる」 「そんな目、してな……っあっ」  否定しようとした言葉は、ヒューネルに緩く立ち上がった屹立を握られたことで呆気なく封じられる。 「ん、や、ぁっ……」  下着の上からあやすようにやわやわと揉まれ、条件反射で逃げかけた腰を引き戻される。息をつく間もなく、今度は先端をぐりぐりと弄られて快感が増し、先走りが滲み始めるのを感じた。  下着の中に放ってしまいたくなくてヒューネルの胸板を押そうとするが、びくともしない。自分で下着を脱ごうとしたが、なぜかその手首を掴まれて阻まれた。 「な、んでっ、や、ぁん……っ」  上下に扱かれ、屹立は一層硬度を増しながら、耳を犯すような水音を立て始める。目尻に涙を浮かべながらヒューネルを見ると、ヒューネルは意地の悪い顔で微笑んだ。 「直接触って欲しい?」  こくこくと頷くと、ヒューネルはさらに羞恥を煽る言葉を続けた。 「じゃあ、そう言って」 「っ……さわって、おねがっ……」  羞恥をかなぐり捨てて懇願すると、褒めるようににこりと笑顔を向けられ、ずるりと下着から取り出された。 「っ……え、ちょっと何してっ、やぁっ」  そのまま直に触られるのかと思ったが、ヒューネルは頭を伏せてそこを口に含んだ。そして、抵抗する隙も与えずに舐め転がされ、殴りつけるような快感に襲われる。  抗おうとしても無駄だった。既に限界まで張り詰めていたそこは、呆気なくヒューネルの口腔へ精を放ってしまう。 「ぁああっ」  高い矯声を上げながらびくびくと震える俺の腰をヒューネルはきつく抱き寄せ、余すことなく飲み干していく。 「やっ、飲まなっ……」  制止する声も聞かずに最後まで飲まれた上に、吸い上げた後に愛おしいと言わんばかりに先端に口付けられ、かっと顔に熱が集中する。 「エレン、エレン……っ」  好きだと告げる代わりのように名前を何度も呼びながら、ヒューネルが指先を双丘の奥に潜り込ませてきた。 「ぁっ……」  軽く窄まりを指で突かれただけなのに、射精したばかりで柔らかくなっていたものが反応し、また勃ち始める。それを見たヒューネルは嬉しそうに笑みを浮かべ、舌先で先端をくすぐりながら窄まりにゆっくりと指を押し入れてきた。 「っん……」  後孔に指を入れられるなんて初めての行為で、もっと戸惑うだろうと思っていたのに、なぜか足りないという感覚に陥った。  もっと、太くて大きいのに突かれたい。  自分の中に沸き起こった欲望に驚き、恥じらいながら、ヒューネルの指を奥へと招き入れていく。 「もっ……と」  喘ぎながらヒューネルに強請るような言葉を言うと、ヒューネルは笑みを浮かべて内部のある一点を指で押した。 「ひぁっ……」  びりっとした電流のようなものが全身に走ったかと思うと、すぐに脳天を突くほどの強烈な快感が襲いかかる。 「やっ、な、に……やっ、やぁ」  ヒューネルは俺の反応を楽しむように、何度も何度もそこを弄ったり、突いたり、引っ掻いたり、押したりしてくる。その度に背中が反り返り、幾度も白濁が屹立から飛び出しては、ヒューネルの胸板や頬、自分の腹部にも掛かってしまう。 「気持ちいいみたいだね?」  ヒューネルのその問いに答える余裕もなく、乱れに乱れたところで、いつの間にか十分に解れていた後孔に待ち望んだものが押し当てられるのを感じた。 「あっ……」  自分の興奮に連動するように窄まりが収縮し、ゆっくりと押し入ってくるヒューネルのものを美味しそうに咥えていく。  そこで一瞬、不思議な感覚に見舞われた。こんな行為をするのは当然ながら初めてのことだというのに、どうしてか、ヒューネルのいちもつが自分の中に入るのは当然のことで、懐かしいとさえ思えたのだ。  そして、完全に中に収まってしまった時、まるでもともと一つだったものがようやく溶け合えたような感覚があった。  どうしてだろう。  しかし、その感覚をゆっくりと味わう余裕はなくなった。ヒューネルが律動を開始したことで、意識が奪われかけるほどの快感に絶え間なく襲われたからだ。 「あ、ひぁっ……あぁん……っ」  奥を突いたり、中をかき混ぜたり、入り口の方をくすぐったりと絶えず動かされて、感じすぎて訳が分からなくなる。 「ヒュー……ネルッ……ヒューネルっ」 「エレンっ」  愛を囁く代わりのように互いの名を呼び合い、歓喜のためか悲しみのためか分からない涙を流し合う。何度も絶頂を迎え、幾度気を失いかけても引き戻され、ヒューネルに求められるままに口付けながら名を呼び、全身で彼の全てを感じる。  欲望に果てがないのだと教え込まされながら、意識を失う寸前にヒューネルの顔を見上げた俺は、その姿に誰かの影を重ねかけた。 「ヒュー……」  俺が口にしかけた名前は本当にヒューネルだったのか、確かめる術もないまま意識が白く飛ぶのに任せた。

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