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12 輪廻転生①

深い眠りに着いていた記憶が呼び覚まされる……。  今より遥か昔、俺は晴れの神エウディアーとしてこの世に誕生した。俺と共に誕生した雨の神ヒューエトス、雪の神ヒョニ、曇りの神シュンネペイアとは、人でいう兄弟のような関係で、大きな仲違いをすることもなくそれなりに仲良く過ごした。  それなりに、というのはなぜかといえば、他の神々もそうだが、彼らは自分の性質を特に大事にしていて、互いに深く干渉しあったりしないからだ。喧嘩し合うことがないということは、言い換えれば、互いにそこまで興味があるわけではないと言える。  父親でも母親でもあるケロス曰く、俺たちはそれぐらいの距離感で接していないとよくないことが起こるらしく、それがあるべき姿なんだと。でも俺はなんだか、それは寂しいように思えた。 「なあヒョニ、雪だるまっていうの知ってるか?俺と一緒に……」  ヒョニに近づいて遊びに誘おうとしたのに、当のヒョニは正に氷のように冷たい表情で言い放った。 「あなたとそんな遊びできるはずがないじゃない。私があなたの晴れに当てられて、倒れてしまうわ。たとえそうならなくても、雪は一瞬で溶けてしまう。分かるでしょう?」 「そう言わずにさ……」  ヒョニは俺の声を無視して、そのまま立ち去った。俺は一瞬肩を落としたが、めげずに今度はシュンネペイアに声をかける。 「シュンネペイア、入道雲って知ってるか?青空にもくもくってできる雲なんだが、それを俺に見せてくれよ」  シュンネペイアは俺のお願いを聞いて、困ったような顔をする。 「たとえそれを作れても、一瞬で消えてしまうよ。俺が作る空一面の曇り空と、君が作る青空が頻繁に、目まぐるしく変わるだけだろうね」 「うーん、そっか。そうだよなあ……あ!だったらみんなで揃って、いっぺんにいろんな天気を楽しむっていうのは」  その時、俺の頭を背後から誰かが叩いた。 「いって!なんだよ、ヒューエトス。文句があるなら口で言えよな」 「………」  睨みつけるが、ヒューエトスは無言で俺を一瞥しただけですぐにさっと離れて行こうとする。その背中を俺は咄嗟に追いかけた。  ヒューエトスと俺は正に真逆の性質で、やたらと他の神々と関わりたがる俺は、ケロスに彼とは深く関わらないようにときつく言いつけられていた。だが、そう言われずとも、俺はヒューエトスと関わりたいなんていう気持ちは、初めのうちは少しもなかった。  でもそれは、ヒューエトスが俺と正反対の性格で、何から何まで考えすぎるからとか、後ろ向きだからとか、そんなことじゃない。ヒューエトスが先に俺を嫌っているようだったからだ。 「なあ、ヒューエトス。お前口が利けないのか?今日こそは、あ、でも、い、でも、いいから何か一言でもいってくれないか?」  俺は何か考えがあったわけではないが、その日は何となく絡みたい気分になってヒューエトスに付きまとった。 「……」  ヒューエトスはしつこくついてくる俺を振り切るかと思えば、そうではなかった。黙ったままだが、来るなら勝手にしろ、と言わんばかりに俺に好きにさせた。 「なあ、ヒュー……」  俺が懲りずに話しかけようとした時だった。上空からぽつりと雨粒が降ってきた。 「わあっ」  ぱっと空を見上げた途端に、俺の上に次から次に雨が降り注いできて、俺は感嘆の声を上げる。それは単に雨に打たれるのが楽しいからというのもあるが、それ以上に、それに広がる現象に感動したからだ。 「ヒューエトス、ヒューエトス、見て」  俺が空を指差しながら呼びかけると、ヒューエトスがようやく反応し、俺と空を見て目を見開く。俺たちの上空には、綺麗な青空が広がっている。それなのに雨が降り注いでいて、雨と晴れが仲良く共存しているみたいだった。 「綺麗だな」  俺がヒューエトスに笑いかけると、ヒューエトスは半ば呆けたような顔で俺をじっと見つめた後、やがて薄っすらと頬を染めて頷いた。  その出来事は、本当に些細なことだったのかもしれない。他人が聞けば、そんなこと?って笑ってしまうだろう。  だけど、俺とヒューエトスにとっては大切なきっかけになったみたいで、それから急激に距離を縮めた。親しくなっていく中で、ヒューエトスはどうやらずっと俺と仲良くなりたかったらしいけど、ケロスの言いつけを守って我慢していただけだったらしい。  俺はただヒューエトスの傍にいるのが心地良くて、ずっと一緒にいたくて、ヒューエトスの好意を受け入れた。初めはもちろん驚いたし、自分もヒューエトスをそういう目で見ているか分からなかった。だけど、愛を囁かれるたびにだんだん、胸の内に嬉しさが込み上げるようになって、いつの間にか俺もヒューエトスを愛していた。  それなのに、どうして俺たちは離れなければならなかったんだろう。ヒューエトスの俺への愛が深まれば大雨が続いて、大洪水。逆に俺のヒューエトスへの愛が深まれば、晴天続きの大干ばつ。二人一緒にいればいるほど、そんな災害が頻繁に起こるようになってしまって、だから離れなければいけなかったのだけれど、俺はそんなの関係ないのにって思う。  俺はただ、ヒューエトスと傍にいられれば、それだけでよかったのに。

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