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13 やがて虹がかかるまで③

「……、……じゃない?」 「そうかもしれないな」 「ん……?」  誰かの話し声が聞こえて身動ぎすると、後ろの蕾に違和感を覚えた。何かがそこに入れられていて、中に何か固いものが……。  ゆっくりと目を開いていくと、間近にヒューネルの美貌があって、驚いて反射的に身を離そうとしたが、腕の中に抱き込まれていて動けない。 「あ、エレン。起きたね」 「ヒュー、……んっ」  ちゅっと音を立てて口付けられると同時に、中に埋まっているものも動いたのか、ぐちゅりと音がした。 「へっ?ぁうっ……」  眠りに落ちる前のことを思い出し、本当に中に収まったままなことに気づいて慌てる。だが、それも一瞬のことで、やっぱりヒューネルと一つになっていると思うと、羞恥よりも嬉しさが広がった。  ところが、ぎゅっとヒューネルにしがみつこうとした時、そんな気持ちを一気に冷めさせるような声が降ってくる。 「ママ、大事な話があるんだけど」 「……っ、え?」  驚いて身を捻って声の方を見れば、エレンとヒューネルの息子だというあの少年が苦笑気味にこちらを見ていた。しっかり交わっているところを見られているという状況に耐えられず、急いで咥えこんでいるヒューネルを出そうとしたが、当の少年に思わぬ言葉を投げられる。 「そのままでいいよ。いや、むしろそのままの方が都合がいいから」 「へ?どういう意味?」 「忘れてるかもしれないから再確認するけど、二人のその行為で、僕に力を全て受け渡そうとしているんだったよね?」 「う、うん、そうだね……」  行為に夢中になり過ぎて、思わず当初の目的を忘れかけていましたとは口が裂けても言えない。 「それで、さっきも一回、二人がしてから僕に送られてきたんだけど、まだ十分じゃないみたいで。だから、外がまだ晴れのみに支配されててさ」  この体勢からでは上手く外が見えないが、オレンジに染まりゆく部屋の色合いから、少年の言葉が真実なのだと理解する。曇天ばかりの日々の時は、こんな色合いに部屋が染まることはなかった。 「じゃ、じゃあどうすれば……?」  これで少年に力を渡してしまえなければ、他の方法を探すしかないのだろうか。焦りを覚えた俺に対して、少年はあっさり言ってのけた。 「もう一回交わってみて。たぶんあと一回でいけると思う」 「もういっか……へ?」 「恥ずかしいかもしれないけど、近くにいれば受け渡しが上手くいくかもしれないから、僕は部屋の隅にいるね。あ、ちゃんと目と耳は塞いでるから」 「は?えっ、ちょ……」  理解が追いつく前に勝手に話を終えられ、何が何だか分からないうちに、ヒューネルが俺の体をぐいと自分の方に向けた。 「ちょ、ヒューネルっ!?」 「彼のことは構わなくていいから、俺に集中して」 「集中って……ひぁっ、やめ……ぁああっ」  いつものごとく俺の制止の声も空しく、再び強引にヒューネルに犯され始めた。二回戦だというのに、まったく中のものは昂ぶりが鎮まっておらず、これ以上ないほど深い場所までずんずんと突かれる。 「やっ、待って、ふかっ……ひゃん……っ」 「エレンの中、よすぎて、永遠にこうしていたいな」 「やっ、そんなされたら、壊れ……っ、ぁあっ」  永遠に入っていてほしいとは思うが、こんなに突かれ続けたら本当に壊れてしまう気がした。想像すれば怖い。それなのに、他でもないヒューネルにそうされるのだと思うと、怖さ以上に果てのない幸福の海に飲み込まれてしまうようで、感極まって涙が止まらなくなる。 「エレン、エレン……っ」 「ヒューネルっ、ひあああっ」  一際強く中を突かれ、高い嬌声を上げた瞬間、奥深くにヒューネルの熱がもう一度吐き出されるのを感じた。  その途端だった。部屋の中に七色の光が溢れたかと思うと、部屋の片隅にいた少年の方へ光が集められていく。とても不思議で美しい光景に息を飲んでいると、少年は笑い声を立てながら窓を開け、空に飛び立っていく。 「パパ、ママ、ありがとう。僕はこれで虹になれるよ」  ヒューネルと繋がりを解き、二人で窓辺に立つと、黄昏色の空一面に、七色の鮮やかな橋がかかった。 「虹……、これが?」  半ば呆けたように眺めながら、隣に立つヒューネルを見上げる。彼は俺に柔らかな笑顔を向けながら腰を抱いてきて、俺も笑い返して再び一緒に空へと視線を転じた。  その日、夕暮れ時にかかった大きな虹は、日が落ちてもかかり続け、それからしばらくはそこにあった。まるで俺とヒューネルを見守っているように、いつまでも。

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