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14 未来永劫、あなたと共に④

 頭を撫でる優しい手の感触が心地良く、夢現の意識で頬ずりすると、唇に柔らかな口付けが降ってきて、ゆっくりと意識が浮上していく。  日暮れ時の西日が差し込み、淡い桃色に染まる部屋の中、美しい男が窓の外をぼんやりと眺めている。その男の膝の上で髪を梳かれながら、俺はしばし目の前の光景に見惚れた。  もう少し、このまま……。  写真に収められない代わりに脳裏に刻み込んだ時、ヒューネルが視線をこちらへ向けた。 「起きたんだね。おはよう」  花が咲いたような笑顔を向けられ、ドキドキと胸が弾む。 「お、おはよう。いつの間に部屋を移動したの?ここ、ヒューネルの部屋だよね」  じっと見つめ合っているとそのまま囚われてしまいそうで、視線を逸らそうとしたが、俺の心の機微に敏いヒューネルはすぐに気がつき、顎を掴んで引き戻される。 「君が眠ってしまった後、服を着せてこの部屋に運んだ。シャワーとかで君の体を綺麗にしたかったからね。どこか気持ち悪いところはない?」  言われてみれば、どうりで体がさっぱりしている。寝ている間にあちこち拭かれたり洗われたりしたのを想像し、かっと顔が熱くなる。 「な、ない。ありがとう……」 「どういたしまして」  再びにこりと微笑まれ、さっと口付けられる。キスを解かれると、ふと頭に浮かんだことが口をついて出た。 「ヒューネルは、記憶が戻ってない時も俺をすぐに好きになったけど、あれは単に一目惚れしただけ?」 「え?ああ、あれね。一目惚れというか……」 「?」  何やら照れ臭そうに言い淀むのを見て、余計に知りたくなってにじり寄る。 「分かった、話すよ。いつかは話さないといけないかなとは思っていたからね。実は、俺は小さい頃から読んでいた絵本があって、それがちょうど俺たちの神様だった頃の話に似ている内容だったんだ。それを読むうちに、君に似ている登場人物のことが好きになって。そしたら、街の中で偶然君を見かけて、その時に一目惚れした。でも会ったばかりでそんな話をしても引かれると思ったから、あの時に敢えて、その場で一目惚れしたふりをした」 「えっ、じゃあ、近衛騎士団に来たのも……?」 「そう。全部、君に会うためだよ。でもあの絵本、ケロスも知っていたはずなんだけど、やっぱり本当は俺たちに気づいて欲しかったのかもね」 「その絵本、俺も見たいな」 「分かった。えっと、どこにあったかな……」  やがて絵本を見つけたヒューネルに強請り、読み聞かせをしてもらった。何げないひとときだけれど、とても満ち足りた、幸福に包まれた時間だった。

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