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第19話 3、大丈夫だから、ね。

 呆然と佇むジルに、リヒトは急ぎ駆け戻る。 「ジル、今先生が来るから」  そう声をかけながら、ジルの傍による。 「リヒト」  そう言って、ジルはリヒトに抱きついた。リヒトもそっと抱きしめる。 「ジル? ……大丈夫だから、ね。心配しないで」 「僕、怖い。僕は、魔法を使えないよ、使っちゃいけないんだよ……」 「みんな初めは失敗するものだから。俺だって、結構色々やらかしててさ。父さんや兄貴から、沢山フォローして貰ってたんだ。だから皆一緒。ジルは初めてが今だから、こういうことはあって当然。想定内! その為に俺がいるんだよ。だからジル、逃げないで」  リヒトの言葉はジルの心に染み込んでくる。  ……リヒトがそう言うんだから。  ……他の誰でもない、僕の運命の人がそう言ってくれるんだから……信じよう。  僕はリヒトを……信じる。 「……うん。ありがとう。僕、リヒトを信じる。信じるから」 「それよりも、凄いよ! いきなり強風でしょ。どうやったの?」 「……えっと……あんまりいい事じゃ、ないんだけど……」 「うんうん。大丈夫」 「えっと……さっき教室で……嫌な、気持ちになっちゃって……それで……」 「うん。それで?」 「……それで胸の中が、グルグルって渦巻いたようになってね……それじゃダメだって思ったんだ。そしたら……」 「うんうん。そっか。ジルの魔法は、ジルの気持ちが反映されるタイプなんだね」 「僕の気持ちが?」 「うん。多分ね。いろんなタイプがあると思うんだけど、ジルは魔法にダイレクトに現れるんだと思うよ」 「……でも、それって……危ないんじゃ……」  不安げに瞳を揺らすジルに、リヒトはさわやかに微笑んで答える。 「要は使い方って事! ちゃんと自分のこと分かってて、使う時を考える。もし今みたいな事があっても俺がいるから大丈夫! ちゃんとフォローするし。それに俺は、ジルの魔力に介入できるんだから。ね!」 「……そっか。うん、そうだね。ありがとう、リヒト」 「自信持って」 「……うん、そうだね」  二人でそう話していると、教師がやって来て、その時の話をすることになった。 「成程。分かった。学園長の言った通りだな」  教師が言うと、リヒトも頷いた。 「でしょう? 凄いんだよ、ジルは」  しかしジルは慌てて手を振った。 「違うよ! リヒトのお陰だよ! それなのに僕がコントロール出来てなくて」  すると二人は微笑んだ。 「謙遜しなくていい。自信を持ちなさい。改めてジルの才能を見抜けなかった事を謝るよ。その分、これからしっかりフォローしていくからな」  その教師が言った。 「そうそう! 自信を持って」  リヒトも励ます。 「ありがとうございます。もう半年も時間はないんですが、成果が出るよう頑張ります」  ジルはそう言ってはにかんだ。リヒトは内心、ジルのその笑顔に悶えた。  やばい! 可愛すぎる! 超素直!  どんな時でもリヒトはリヒトだった。  ジルの魔法は今始まったばかり。俺がしっかりフォローしないでどうする!  絶対ジルの才能を開花させてやる!  リヒトはかなり気合が入っていた。そんなリヒトから、ジルが逃げられるはずはない。しっかりジルは捕らえられている。 「じゃあ、先生、後よろしく」  リヒトが言うと、教師は頷いた。 「ああ、問題ない。怪我がなくて何よりだったな」 「すみません。よろしくお願いします」  ジルはぺこりと頭を下げると、リヒトと共に歩き出した。その二人の後姿を見て、教師は思った。  成程。ギュスターブのリヒトと、ノベールのジルか。なかなかの組み合わせだな。  こりゃあ俺たち教師陣の見る目がなかったと言われても仕方がないな。  教師は苦笑した。  食堂は、もう既に人で溢れていた。 「ごめんね。僕のせいで遅くなっちゃったから……」  ジルはしょんぼりした。 「全然、全く、大丈夫! まだ時間あるし。ジルと一緒に並ぶのも楽しいし。ね」  リヒトはカラッと笑った。 「なんか、リヒトの方が年上みたい」  ジルが苦笑して言うと、リヒトは変わらず笑って言った。 「だってαだよ。ちょっとくらい頼られたいよ」 「そっか。格好いいね、リヒト」 「超嬉しい!」  列の最後尾に並びながら笑い合ってると、再びクレールたちがやって来る。  リヒトは、しつこいなと、内心腹正しかったが顔には出さない。そのままクレールたちは、二人の前に来た。 「ねえ、いつ辞めるの? 無属性のジルは」  ニヤニヤ笑いながら、クレールが言った。リヒトが口を開こうとした、その瞬間。 「僕は辞めない。退学まであと半年もないけど、退学になるまでは、ぼくは自分からは辞めない」  ジルはそうはっきりと言った。しかしクレールは嘲笑うかのように続ける。 「な~に? 強い人が傍にいるだけで、自分が強くなったような気になってるの? 甘いんじゃないの? 所詮無属性は無属性! 君に魔法の才能がないのは事実でしょ?」 「そうだよ。僕は無属性なんだ。だからリヒトと一緒に魔法が使えるんだ。だから僕は無属性のままでいい。僕は無属性でよかったんだよ」 「は? 何開き直ってるの?」 「そうじゃないよ。僕は僕が無属性だということを、これからは悲観しないよ。無属性だからリヒトの魔力を増幅できるし、僕もリヒトの魔法を使うことが出来るんだから」 「何それ? 嫌な感じ」 「嫌な感じでもいいよ。僕は無属性のジルだよ。今までもこれからも、それは変わらない。変わらないからリヒトと一緒にいろんな可能性を探していけるんだよ。僕は例え学園を去ることになっても、リヒトの横にいる事を諦めないから。それが僕の生きる意味なんだから」 「は? 馬鹿じゃないの?」 「うん、馬鹿でも何でもいいよ。僕は自分からは辞めないから」 「ふ~ん。いつまでそんな事言えるのかな? 今やめていた方がいいと思うけどね。はははっ!」  クレールたちは嘲笑いながら去っていった。  周囲の者はそれを固唾を呑んで見ていた。  無属性のジルが、初めて反論した。しかも今までにない、新たなリヒトという存在に、魔力増幅することで彼を支えられること。そしてジル自身がリヒトのオールマイティな魔法を扱えること。  それらの事実に驚愕していた。  今までそんなΩの存在はいなかった。  無属性という意味を、今まで皆はき違えていたことに慄いた。しかも番になろうかという相手は名家のギュスターブ家の次男であるリヒト。彼が選ぼうとしているのが、ジル。今まで無属性だからと蔑んでいたジルである。 「かっこいいな、ジル!」  ジルが自分で反論するなんて、嬉しい!  リヒトは、自分の存在が、ジルを強くしていることに気付き、感動していた。 「かっこよくなんてないよ。ただ、ぼく一人だったら言い返せなかったんだけど、今の僕にはリヒトがいるから。僕を信じてくれてるリヒトまで馬鹿にされた様な気がして」  ジルは苦笑しながら言った。 「それでもかっこいい。しかも俺のためだなんて嬉しすぎっ!」  皆の注目を浴びていることなど、全く頭から消えていたリヒトは、ジルに抱きついた。  それを見て、周囲の者は、やはり噂通りリヒトがジルを好きなんだと理解した。  しかし諦められない者もいる。その人たちは悔しそうに見ているしか、今はなかった。 「あ、あの、リヒト! 嬉しいんだけど、皆が見てる」  ジルは慌ててリヒトに言った。リヒトは関係ないとばかりにジルを離さない。 「嬉しいからいいんだよ。ジル、大好き!」 「あ、りがとう。でも」 「あ~、早く番いたいな~!」  ジルは恥ずかしかったが嬉しかった。 「僕も……リヒトが好き」  そっとジルは呟いた。  そして現れる嬉しさの光。  ぽっ、ぽっ、ぽっ。  周囲の者は息を呑んだ。
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