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第35話 5、エーテル、やってみようか

「うわ~、なにそれ。クレス、恥ずかしい話はやめろよな」 「別に恥ずかしくも何ともないだろ? お前がジル先輩にべた惚れっていうのは、もうわかっているしさ」  クレスとドニスに笑われ、なんだが腑に落ちない心境のリヒトだったが、ジルが笑っている。  ま、いっか。ジルが嬉しそうだし。  そう思うと、リヒトも笑って答えた。 「まあ、俺の恥ずかしい話は置いといて、皆との合体魔法とか超面白そうなんだけど。今まで皆でとかなかったよな」  リヒトがそう言うと、ドニスも食事をしながら話に加わった。 「ちょびっとでもいいんだけどね。なんかないかな~」 「明日エーテル試してみてさ、そのままなんか考えてみよっか。シメオン先生に相談しよ」 「だな」  ふふっ。楽しいな。僕もみんなと一緒に話をしてる。  ジルはとても嬉しかった。しかし、離れた席で友人らと共にその様子を見ていたシャルルは、悔しかった。  なにが間違いだったんだろう。あそこにいるのは僕のはずなのに!  何が運命の番だよ。僕がリヒトの運命なんだ!  ……そうだよ。あの無属性の人さえいなければいいんだ! 「……ねえ、みんな」  シャルルはΩの友人らに声をかける。そこにはシャルルの取り巻きのβたちもいる。彼らはひそひそと話を始めた。 「あ~、美味かった。今日はガーゴイルだったね」 「でも俺はダカーハとかワームとかも好きだな~」  ドニスはヘビとかの珍味系も好きだった。 「俺はやっぱ、グレゴリーかな」  そうクレスは言った。 「あ~、でもさあ、ドラゴン倒してえな」 「そのうちね」  そんな話を聞き、ジルはドキドキしてきた。  そっか。みんなクエストとか行ってるんだ。  ギルドにも登録していたし。実践、実務訓練……そろそろなのかな。    ふとジルはそんなことに思い至った。  足、引っ張らないようにしよう。よし、頑張ろう!  ジルが気合を入れた様子を見て、リヒトも気合を入れた。  ジルが張り切ってる! よし、俺も頑張ろう。しっかりしなきゃな。  改めて気合を入れなおした。  その日の夜は、友人らの忠告通り、リヒトは我慢した。しかし目の前に二人きりでいるので、煩悩が脳裏をかすめる。  無心だ、無心! なんの修行なんだ!  煩悩に苛まれながらも、爽やかさを失わずに、リヒトはその夜を過ごした。しかしリヒトである。眠ったジルをしっかり抱きしめて眠る。  抱き着くのはいいよな。  だって目の前にジルがいるんだから、抱きしめるくらいはいいよな。  なんて、誰にともなく言い訳をしながら。  翌朝は快晴。 「んん~! よく寝た! おはよう、リヒト」  爽やかにジルは目覚めた。 「おはよう、ジル。さあ、今日も頑張ろう」  リヒトに言われ、ジルは微笑んだ。  なんだか、とってもすっきりしてる。うん、今日も頑張ろう。  ふふっと笑いながら起きだした。ささっと身支度を整え、食堂へ向かう。今日は意外にも早起きだった二人なので、まだ人はまばらだ。当然お寝坊なドニスとクレスはいない。  今日はジルと二人っきりだ!  リヒトは、ホクホクで浮かれていた。  嬉しそうなリヒトを見て、ジルも嬉しくなった。そこで、早速試してみる。  遮断、遮断。  そう。リヒトの魔法の遮断だ。うまくいけばいいなと思いながら試してみると、思いがけず成功しているかのように見えた。 「リヒト、僕、出来た!」  嬉しそうなジルだったが、確かに今ここには魔法は見えていなかった。しかし空に星空のような光が、キラキラ、キラキラ光っていた。それは後で、ドニスとクレスらから、しっかりと報告を受けることになるだなんて、今のジルには知る由もなかったのであった。 「おお~! 遂に実務訓練~?」  シメオンの部屋に行っているジルとリヒトは、シメオンから嬉しい話を聞いていた。 「ああ、そうだ。二年になって始めると言えば実務訓練だろう。ギルドにも登録しているな」  シメオンの話に、二人は頷いた。 「当然! いつでも大丈夫!」 「相変わらず浮かれているな、リヒトは。まあ、いいか。来週から一週間だ」 「う~! ワクワクする。頑張ろうね、ジル」  浮かれているリヒトにつられるように、ジルも微笑んだ。 「うん、頑張るよ」 「じゃあ、早速実践授業だ。今日はラオネもいるから、気合入れろよ、リヒト」 「げえ~! マジか。よし、頑張ろう」  それを聞き、ジルは呟いた。 「……サイン」  聞こえた様で、リヒトが勢いよくジルを見た。 「ジル~」 「えっと、だから、憧れだから。だって偉大な魔術師なんだよ」 「うう~」 「ごめん、リヒト~」 「おい、また花畑咲かせてん のか。ほんと頭の中、パラダイスだな、お前は」 「う、わっ! 兄貴!」  今の間に、移転魔法で来たラオネに、しっかりと見られていた二人は、わたわたと慌てた。 「いいよ、サイン」  わざとその話を蒸し返すラオネ。つい素直に反応するジル。 「あ、そうだ。これに書いて……って、リヒト~」  持っていたカバンから、ノートを出して書いてもらおうとしたジルは、じと~っとしたリヒトの視線を感じ、慌てた。 「……わかっているんだけどさ」  そう言ってふくれるリヒトもかわいいなと思い、ジルは微笑んだ。 「僕の好きな人はリヒトだけだよ」 「うん。わかってるんだけどね」  それでもいじける様なリヒトに、ラオネが、ぷっと笑った。 「ほんと、お前はかわいいな」  そういうと、リヒトの頭を、くしゃくしゃっと掻きまわした。 「もう~! すぐ子ども扱いする!」 「まだまだ子どもだよ、お前は」 「いいよ、もう、それで」  ふくれたままのリヒトの顔を覗き込んで、ジルは言った。 「リヒトも僕も、これから大人になるんだよね。一緒に頑張ろうね」  ふふっと笑ってそう言うと、途端にリヒトは復活した。 「うん。一緒に頑張ろう」 「ほんとお子様だな」 「まあまあ。かわいいもんだよ。あんまりからかうなよ、かわいい弟だろ?」  ラオネとシメオンはそう話していた。 「だからだよ。これくらいで、かっか、かっか怒ってちゃあ、愛しの番を守れやしないさ」 「まあ、そうなんだけどね。相手の挑発に乗りやすいのが、リヒトの弱点なんだけどさ」  二人で苦笑しながら、まだまだ伸びしろいっぱいの、かわいい二人を見つめた。  さて、場所は移り、四人は中庭に来ていた。 「じゃあ、エーテル、やってみようか。もし失敗しても俺が止めるから安心して」  そうラオネに言われ、ジルは緊張しながらも頷いた。 「じゃあ、いきます」 「ジル、大丈夫だから」 「うん。リヒト、よろしくね」 「うん」  そう言いながら二人で手を取り合う。  エーテル、エーテル……っていうか、どうやってエーテル出すの?  根本的なことに、ジルは気付いた。 「……リヒト」 「ん?」 「あのね、エーテルってどうやって出すの?」  光属性は全ての属性を持つ者が扱える魔法だ。光だけで高等魔法に部類する。  その中でも最高峰の魔法がエーテルだ。  いままで単発魔法しか勉強していなかったため、ジルはわからなかったのだ。    しかし。 「大丈夫。俺のこと考えて。とっても幸せな時のこと、考えて。ジルはそれだけで大丈夫だから」 「……え? それだけ? ……わかった。やってみる」  二人でひそひそと話しながら、ジルは最高に幸せな時のことを考えた。  そう。まさに『あの時』のことを。
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