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3 ローン団長とテラ②

 その晩、なんとなく寝苦しくて目を覚ますと、隣室から途切れがちに微かな声が聞こえてきた。時刻を見るとまだ深夜で、こんな夜中に起きていたらローンに叱られるぞ、と自分を棚上げにして廊下に出る。  隣室に目を向けると、ドアが僅かに開いていて薄明かりが廊下に漏れ出ていた。 「テラ……?何や……ッン」  部屋の主にそっと声をかけようとしたところで、背後から誰かに羽交い締めにされ、口を手で塞がれた。 「んっ……!?」  驚いて暴れようとすると、耳元に囁き声が降ってきて力を抜く。 「しっ、俺だ。レオだよ。静かに」 「?」  なぜ静かにしなければならないのかと思いつつも、正面に向き直ってドアの隙間から部屋の様子が見えた途端、レオの言わんとすることを理解した。 「あっ、ふか……いっン……」  ベッドの上で折り重なる二人と、時折聞こえる片方の甘い喘ぎ声。明らかに情事の最中で、しかも声から察するに、組み敷かれているのはテラだ。 「……っ」  急いで踵を返そうとしたのだが、レオに背後から腕を回されていて動けない。 「レオ、はな……っ」 「しぃっ、二人に気付かれる」 「だから部屋に戻……っ!?ちょっと何やって……っ」  片手で俺の口を塞ぎながら、もう片方の手がTシャツの中に潜り込み、腹部をゆっくりと撫でられる。 「や、め……っ」 「じっとして。あの二人を見て興奮しないか?」  囁きながら耳朶を柔く食まれ、胸元に到達した指がきゅっと胸の尖りを摘まんでくる。 「あっ……」  びくりと肩を跳ねさせると同時に、自分の口から媚を含んだ声が出て、目を見開く。 「今……」  レオが驚きながら喜ぶ気配が伝わってきて、必死で首を振る。 「もっと聞かせて」 「やっ……」  胸の飾りを引っ張りながら、片方の手がズボンの中に侵入してきて、まだ反応していないそこを掴まれた瞬間。 「誰だ」  ドアの向こうからローンの声が響き、レオと共に慌てて俺の部屋へ逃げ込む。 「今の……まさか」  ドアを閉め、一息ついたところでレオと目を見交わす。テラの相手がローンだなんて信じられないと口にしかけたが、寸前で思い直す。  テラの今までの発言からそうと取れないこともないと思い至った。もしかしたら、今まで俺への態度がきつかったのも。 「なあ、エレン。お願いがあるんだが」 「何?」  暗がりの中、レオが何やら真剣な顔で見てきて、俺は僅かに後ずさる。 「一緒に寝てもいいか?」 「えっ」  先ほどのことが頭を過り、さらに後ずさると、レオが手を振った。 「さっきのようなことはもうしない。添い寝がしたいだけだ。……駄目か?」 「うっ……」  レオが大型犬のようにしょぼんとしているのを見て、駄目とは言えなくなった。 「い……いいよ。でも、変なことしたら叩き出すから」 「やった。ありがとう」  大げさに喜ぶなり、いきなり俺に抱き着いてきて、そのまま一緒にベッドに転がった。 「わっ」 「ごめん、勢いつきすぎた。エレンは抱き心地いいな」 「ちょっ、はな……って」  抵抗しかけたが、レオが俺に抱き着いたまま寝息を立て始めて脱力する。 「……まあいっか、これくらい」  子供のような寝顔に毒気が抜かれ、俺もそのままゆっくり目を閉じた。

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